あほな話

誰かが読んでくれると嬉しい話

心の風景

かつて賑わっていただろう離島に二人だけで行った。
私たち以外誰もいないけわしい海岸の風景は、
どんよりと曇っていて滞在中ずっと雨に降られた。


私は些細なことに一々不満ばかり持ってしまう。
その心の風景はこんな感じだ。


二人とも生まれた時は大きな船の豪華な部屋で、
家族や近所の人たちに囲まれて暮らしていた。
しかしその部屋はいずれ出ていかねばならず、
外界の大海原へ漕ぎ出すボートに乗り換えた。
その直前、私たちは、周囲の人たちから、
ボートに乗ることが希望あふれる未来であると
何度も教えられ、それを疑う理由もなかった。
小さなボートに乗って目指したのは最初、
遠い水平線から立ち上がる蜃気楼だった。
ところがその幻影はいつの間にか消えていて
私たちを含む大勢の乗客たちは少しずつ、
もっと小さな小舟に乗り換えてばらばらに
散っていき、私たちも二人で同じようにした。
そして現在、私たちはその小舟さえ失って、
捨てきれないゴミとともに大海原を漂っている。
二人を結ぶ力はますます強くなってしまった。
それとともに私は些細なことが気になるようになった。
本当は互いの手を放して一人になるほうが良いかもしれない。
もちろん、そうすれば「死」がもっと近づいてくる。
それでも私は勇気を出して一人になって、
「死」に直面する必要があるかもしれない。
人間を不幸にする文明から最も遠い民族の長老が、
「人は死ぬために生きている」と言ったように。