あほな話

誰かが読んでくれると嬉しい話

病気中毒

ある日、人生で初めてギックリ腰になった。
当時の私は、そんなくらいで休むことは許されず、
いつも通り働いていた。動くたび襲う激痛に
厳しい顔をすると「また顔が怖い」と咎められ、
腰を曲げると「姿勢が悪い」と叩かれた。
会社の同僚はギックリ腰で一週間突然連続休み、
当時の症状の変化を後で詳しく聞かされたので、
私も明日は起き上がれないほど痛みが悪化する
かもしれなかったが翌朝、痛みは軽減していた。
油断するのは危険なので、軽いうちにできる限りの
用事を済ませようと休む間もなく動き続けた。
そうしているうちに、腰のことを完全に忘れていた。
久々にとれた休憩で、気付いた時には完治していた。
昔から、怪我をしたとか病気になったとかで
誰かに世話をしてもらったことは滅多にない。
何もかも自分で対処しなければならなかった。
それでは治るものも悪化しそうなものだけど、
自分しか知らない不治の病以外は治癒が早く、
そのせいで「仮病」などと言われたりした。


ところで最近、奇妙なことを知った。
怪我や病気で家族など誰かに手厚い看護を受けたり
ふだんより大切に扱われたりしていると、なぜか
症状がどんどん悪化するというのだ。人に優しくされる
ことに他の何にも代えがたい満足感を得られる体験の
中毒になってしまうそうだ。そして、そのことに
周囲は気付かないし、本人も意識できないらしい。
それで私はほっとした。そんな中毒は絶対嫌だし、
家族もそういう中毒にならないように、私は自分が
過去されてきたように冷たくなってみようか。
とはいえ、必須の手助けは断れないだろうから
どこまで断るか判断のほうで悩みそう。